「こんな私の会社経営」を読む

「こんな私の会社経営」(岡本文男)を読んだ。
最近の経営者が書いた経営本(以下、経営者本とする)の中では、まれにみる面白さで、かつ、ためになる本だった。
著者は自分のことをダメ人間であるという(本を読むと聡明で堅実な経営者であることがわかる)。
そして、こんな人間でも経営者人生を全うできたことをこの本に記している(著者は経営から引退されている)。
この本のターゲットは、一応起業を目指す人だろう。
しかし、著者は決して押し付けがましい主張をしていない。
著者はまえがきで次のように言っている。
起業を志す人をとくに激励するつもりもなく、参考になるような内容にしようとの強い思いもない。こんな人間がなぜ会社経営をしようと思ったのか、そしてその結果はどうなったのかを伝えようと思っただけだ。
とはいえ、起業を目指す方(特に自分を特別に優秀でない、つまり平凡な人間であると思う人)にはとても参考になるだろう。
なお、現役の経営者が書いた経営本はある程度のポジション・トークが含まれることが多いが、この著者は引退されているので、ポジショントークもないし、シニアであるので有名になりたいといった名誉欲もないようだ。
ドラッカーは企業家精神を「行動する」ことと言っているが、この著者も答えが出ないことに悩むより行動したほうがいいと考えているようだ。
天才でもない限り、机上の論理で先を見通して正解を導き出すことはできない。とりあえずやってみるしかない。
多くの起業家は「平凡」であり、マスコミにもてはやされる起業家は一部でしかない。
ともすれば、時代の寵児のような起業家を理想として、それに近づけようとすることが起業の秘訣であると考える人もいるだろう。
しかし、こういった方法は理想と現実のギャップを埋められず、格好だけまねしてとん挫し、苦しむことも多いのではないだろうか?
基本的に、典型的な起業家はアスリートや芸術家のような特別な人間ではなく、むしろ「落ちこぼれ」が多いのではないかと、著者は言う。
この言葉に怒る人もいるかもしれないが、冷静に自分を見つめることで、無駄に成功者であることを外部にアピールする必要を感じなくなるだろう。
起業を目指す人がなかなかできない、自分を冷徹に見ることができるのが著者の優れたところだと思う。
そして、自分は「落ちこぼれ」であるということに立脚するからこそ、誰もが成功の夢を持てる職業が起業なのだと著者は考えているのだ。
「世の中そんな上手い話はない(あるなら自分でやればいい)」といったご隠居の知恵を感じて、安心できる本である。